2026/6/23

私のWellbeing

「生きづらさ」から始まった旅—— すべての「いのち」がつながるウェルビーイングへ -私が考えるウェルビーイングとは vol.01

淺井明紀子(公益財団法人 日本ウェルビーイング財団 代表理事)

1995年に有限責任監査法人トーマツ入社、2025年9月退職。公認会計士として各種監査業務に従事するとともに、採用・人材育成、DEI、Well-being推進リーダー、特例子会社トーマツチャレンジドの社長を経験。組織の中で人が役割や評価に縛られるのではなく、自身の感覚を起点に力を発揮する在り方に可能性を見出してきた。現在は、人・組織・社会・自然をつなぐ「いのち全体のウェルビーイング」を軸に、分断と孤立を超える新たな社会経済の在り方を探究している。

「他人軸」で生きていた自分への気づき

Q: 「ウェルビーイング」という言葉の出会いを教えてください。

元をたどると、私自身の「生きづらさ」がきっかけだったように思います。前の職場で働いていた頃、なぜこんなに生きづらいのかと、強く感じていた時期がありました。

振り返ると、人の評価や承認を求め、完全に「他人軸」の中で生きていたのだと思います。それに気づいた時は、正直愕然としました。

「この年齢でようやく気づいたのか」という過ぎた時間への後悔とか、若いころはとにかく様々なことにチャレンジするのが好きでがむしゃらにやってきたのに、それが本当に意味のあることにつながっていたのかという無念さも湧いてきました。

これから先、同じ時間も体力も使えないのに、これからどうやって生きていくのかと、深く落ち込んだ時期があったのです。


Q: そこからどう変わっていったのですか?

その時期に、コーチングを通じて知り合った方が主宰する私塾に通うことになりました。自身のビジョンを人前でプレゼンし、それについてダイアログをするという場だったのですが、そこで初めて体験したことがありました。

「◯◯会社の上司である淺井さん」ではなく、「淺井明紀子という一人の人間」として受け容れてもらえる場だったのです。

サードプレイスとはこういうものかと、初めて実感しました。家族の中でも仕事関係でもない場所で自分軸を見つめ直した時、結果や役割ではなく、自分という存在そのものを受け容れられるようになったのです。

自分軸というメガネをかけ直すと、同じ世界なのに見えるものが全く異なる!この感覚を、会社の中で生きづらさを感じている人たちにも届けたい——それがDEI(

Diversity, Equity and Inclusion)やウェルビーイングの活動を始めた原点です。


「一人ひとりの話をしたいのだと気づきました」——ウェルビーイングとの出会い

Q: 社内での活動が、ウェルビーイングへとつながっていったのですね。

前職では、ダイバーシティ、特に女性活躍推進の活動として、「一人ひとりが、役割や属性に関係なく尊重されることを伝えたい」、そんな想いで様々な取り組みをしていました。

ただ、ダイバーシティの活動を通じて、多様な背景を持つ人たちの声に触れる中で、私の関心は次第に「一人ひとりの存在そのもの」へと向かっていったのです。

そしてちょうどそのころ、会社の中でもウェルビーイングの活動が立ち上がり、「ウェルビーイングとは何か」「企業でどのような活動をすればウェルビーイングとして感じてもらえるのか」という問いを持ちながら、社外の勉強会に積極的に参加し、インプットや体験を重ねていったのです。それが私とウェルビーイングの本格的な出会いでした。


自然とのつながりが開いた、もうひとつの扉

Q: 財団を立ち上げるにあたって、ウェルビーイングへの視野がさらに広がったとお聞きしています。

退職して財団の準備を始めた時、「プラネタリー・ウェルビーイング」——地球規模でウェルビーイングを考えるという方向性が生まれました。

ただ正直なところ、その時点ではまだ自分の視野が地球規模まで広がっていませんでした。そこで仲間に声をかけてもらい、世界で起きていることや自然とのつながりを改めて学び始めたのです。

特に大きな転機となったのが、シューマッハ・カレッジへの訪問です。そこでは自然の中で、一つの生き物としての自分を体で感じる体験をしました。

吹きっさらしの野原の真ん中に立ち、雨風に打たれながらも、ただその中にいる自分を感じる。初めて自然との一体感を感じた瞬間でした。

それまで感じてきた「生きづらさ」は、すべて人間関係の中で起きていたことだったのだと、その時気づいたのです。

自然とのつながりを感じた瞬間には、深い安心感がありました。もっと大きなものに包まれているような感覚とでも言えるでしょうか。

「人間関係の問題は、人間社会の中だけでは解決できないこともある」という言葉をある方から聞いたことが、ずっと心に残っていました。

生きづらさの根源も、ひょっとしたら自然との分断から生じているのかもしれない——その時の大きな気づきでした。

※注釈: シューマッハ・カレッジ(Schumacher College)
イギリス・デヴォン州トットネスを拠点に1991年に開校した教育機関。経済学者E.F.シューマッハーの思想「Small is Beautiful」に着想を得て設立され、生態学・ホリスティック教育・再生可能経済などを柱とした変革的な学びの場として世界中から学生が集まった。2024年に一度閉校したのち、Satish Kumar財団のもとで再興の取り組みが続いており、2026年の新拠点での再開を目指している。


Q: その体験が、財団のビジョンにつながっているのですね。

そうなんです。シューマッハ・カレッジでの体験から、今自分自身が抱えている悩みや地球の遠くで起きている環境問題——それらがすべてつながっているのだと感じられるようになってきました。

そのつながりの中で自分も生きているという実感を持てると、他人軸・自分軸で悩んでいたころとはまた一段違う発見がありました。

「含まれている、つながっている、包んでいる」——そういった規模感の感覚が、自分の世界観を大きく変えてくれました。

こうした歩みを通じて、私の関心は個人のウェルビーイングから、人と人との関係性、地域社会、そして自然環境へと広がっていきました。だからこそ財団の理念は、「個人」ではなく「すべての生きとし生けるもの」のウェルビーイングを目指すものになったのです。

シューマッハ・カレッジ創設者 サティッシュ・クマール氏と


淺井代表が考える「ウェルビーイング」の要素

Q: 淺井さんにとって、ウェルビーイングはどのような言葉で表されますか?

ウェルビーイングはやはり一言では表しにくい言葉ですが、自分なりに要素を挙げるとすれば——感謝、つながり、豊かさ、尊厳。そして「命の手触り感」でしょうか。

「命の手触り感」というのは少し不思議な表現かもしれませんが、命そのものを尊く感じられるかどうか。そう、「尊い」という感覚もウェルビーイングの重要な要素だと思っています。

こうした要素は、人によって異なるはずです。それぞれが大切にしているウェルビーイングの要素を持ち寄り、重なる部分を見つけたり、新たな共通点を発見したりする——そのような対話の場こそが、共にウェルビーイングを深めていくための第一歩になるのではないかと考えています。


財団のユニークさ——「すべての命」を視野に入れる

Q: 日本ウェルビーイング財団の理念「すべての生きとしいけるもののウェルビーイング」は、他にはなかなかない視点ですね。

一般的にウェルビーイングというと、個人のウェルビーイング、広げても地域や社会のウェルビーイングまでというイメージが多いと思います。

それに対して私たちの財団は、人間以外の存在——動物も植物も地球も——すべてを視野に入れているところが大きな特徴です。

この理念に最もこだわってくださったのは前野先生です。次回の前野先生との対談で、その思想をさらに深くお聞きできることを楽しみにしています。

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